ナイアシンとはニコチン酸・ニコチン酸アミドの総称で、ビタミンB3とも言われる水溶性ビタミンB群の1種です。
この栄養は体内で別の物質に生合成されると、糖質や脂質、たんぱく質の代謝やエネルギー生産に関与していきます。脂肪酸やステロイドホルモンなどの生合成、DNAの修復・合成、細胞分化などの反応にも幅広く関与する栄養です。
ナイアシンのこれらの働きは、妊娠初期における胎児の脊髄二分脊椎などの先天異常や流産の予防に効果があるとされています。胎児の健やかな成長と出産には欠かすことができない栄養なので、妊活はもちろん妊娠中は積極的に摂っていった方が良い栄養と言えるでしょう。
またこの他にもナイアシンは、産後のお母さんの低血糖改善、母乳で育てる場合母乳内の濃度が高いと出生後12か月時の湿疹リスクが低くなるといったことが解っているため、引き続き進んで摂っていくことをおすすめします。
ナイアシン(ビタミンB3)の働き
ナイアシンって聞いたことないけど何?
ナイアシンは、たんぱく質、脂質、糖質などから細胞でエネルギーを作る時に働く酵素を補助します。主な働きとしてはこのように、体内の様々な代謝や合成・脳神経の働きのサポート、アルコールを分解、血行を良くする、胃腸管を正常に保つ、皮膚の健康の維持などです。直接的に働くというよりも身体の様々な働きを助け、補助する役割を担う栄養です。(参照:国立健康・栄養研究所「ナイアシン、ニコチン酸およびニコチンアミド」)
そのため飲酒が多い、胃腸管が弱い、皮膚炎などになりやすいといった人は積極的に摂っていった方が良いと言えるでしょう。全身の500種類もの酵素の補助をするものであり、身体の調子を整えてくれる重要な役割を担う栄養なので、健やかな身体を維持するためには欠かせません。
ビタミンなどの身体の調子を整える栄養はたんぱく質や糖質などの栄養と比べると摂る量は少量で良く、また調子を整えるといった役割であるため働きを軽んじてしまうことが多いですが、これが不足すれば身体にはあらゆる不調が現れてきますし、最終的には死に至るといったこともでてくるため、侮ってはいけません。
特にナイアシンは体内にあるとされている合計2200種類もの酵素の500種類に関与するものであり、いかにその働きが大きいかがわかります。そもそもこれが足りなければエネルギーなどの産生のパフォーマンス自体が落ちてしまうため、補助の働きをする栄養でありながらも、健康の根幹に深く関わってくるものでもあるのです。
馴染みないものじゃが、体には欠かせない必須の栄養素なのじゃ。
ナイアシン(ビタミンB3)はどうして妊娠中に必要なの?
妊娠中の栄養の過不足によって胎児には様々な影響が及びますが、その中の1つとして心配になるのが、ナイアシン不足による先天性疾患や流産・死産の問題です。
妊娠中にナイアシンが不足するとこれらのリスクはグッと高まるので、心得ておかなければなりません。逆にナイアシンを積極的に摂り不足を防ぐようにすれば、胎児の先天性疾患や奇形を防いでいくことができます。
神経管閉鎖障害や二分脊椎症、無脳症などの予防に繋がり、流産や死産も避けられ、胎児の健やかな成長を育んでいくことができますから、これは非常に大きなことだと言えるでしょう。
これらの問題は妊娠初期からのナイアシン不足が影響してくるため、摂取については早い段階から意識していくことが大切と言えます。また授乳期においても母乳中のナイアシン濃度が高いと、12ヶ月時におけるアトピー性湿疹のリスクが低下するといった報告もあるため、ナイアシンについては産後においても引き続き摂っていった方が良い栄養なのです。
もちろんナイアシンは母体についても妊娠高血圧腎症を防いでくれるといったメリットがありますから、母子ともに健康を保つためにも賢く役立てていけるようにしてください。ただ妊娠中においては様々な栄養の必要量が増加しますから、ナイアシンに限らずバランスよく全体の栄養を補っていくことを忘れてはないよう心がけていってください。
妊娠中に不足するとどうなる?不足しやすい人の特長は?
妊娠中にナイアシンが不足すると、ペラグラという病気に陥るリスクが高くなります。下痢、皮膚炎、精神神経障害などが主な症状ですが、これらは放っておくと死に至るケースもあるので気をつけなければなりません。
日本においてはペラグラの患者は非常に稀ですが、アルコール依存やビタミン不足であったりするとどうしてもリスクは高くなるため注意が必要です。
また食生活や病気、服薬している薬の性質などによって不足してしまうといったこともあるので、こういった点についても心得ておきましょう。どういった人が不足しやすいのか特徴を理解しておけば、より賢く対策をとっていくことができます。
トウモロコシを主食にしている人
ナイアシンはこれを直接栄養として摂取するほか、体内で必須アミノ酸のトリプトファンからも合成することができます。しかしトウモロコシを主食とする人の場合は、トウモロコシ自体のトリプトファンの含有量が低く、また他の食品を進んで摂ることも少ないために、ナイアシン不足が多く見られる傾向にあります。
しかしこのケースはトウモロコシを主食とする南米に多いものであり、日本の通常の食生活においてはここまでの不足を心配する必要はありません。ナイアシンやトリプトファンは比較的多くの食品に含まれている栄養なので、バランスを心がけた食事を摂っていれば大きく不足するような心配は無いのです。
ビタミンB6が欠乏している人
ビタミンB6は体内でトリプトファンからナイアシンを生成する際に必要となる栄養であるため、これが欠乏していると体内でのナイアシン生成が上手くいかず、結果として不足する可能性が高まってきます。
ビタミンB6は幅広い食品に含まれ、また腸内細菌によっても作られることからあまり不足することはありませんが、抗生剤などを長期間飲んでいると腸内細菌叢が乱れて不足に陥るといったケースもあるので気をつけなければなりません。またピルの常用やある種の血管拡張剤などを摂取している場合も不足しやすいと言われているため、これらに当てはまる場合もナイアシン不足に陥ることが無いよう注意をした方が良いでしょう。
イソアニジド(抗結核剤)を服用している人
抗結核剤のイソアニジドには、ビタミンB6の排出、トリプトファンのニコチン酸への代謝を阻害するといった働きがあります。ビタミンB6はトリプトファンからナイアシンを生成する大切な栄養であり、またトリプトファンはナイアシン生成の元となるものです。イソアニジドはこれらの両方に問題を起こしてしまうものであるため、どうしてもビタミンB6・ナイアシン不足を避けることはできません。
イソアニジドを服用している場合、結核を患っているということですから、これを治すために抗結核剤の服用は欠かすことは出来ません。ビタミンB6欠乏を改善するためには医師に相談の上で適切な処置をとっていかなければなりませんから、勝手に薬の服用を止めるといっはしてはいけません。
代謝異常(ハートナップ病・トリプトファン症)
ハートナップ病やトリプトファン症などの体内におけるアミノ酸輸送の代謝異常では、血中のトリプトファンの量があまりに少なくなると体内におけるビタミンB群の生産量が落ちてしまい、このせいでビタミンB6を欠乏しやすくなります。
遺伝性の病気ですが、通常は年齢が上がることに発作などの症状は少なくなり、また良好な栄養状態を維持していくことで改善されていきます。治療としてニコチン酸アミドを服用することもあるため、こういった服薬によってビタミンB6の欠乏を回避していくことも可能です。
医師の指導のもと改善、治療に努めていくことが不可欠なので、よく相談していきましょう。
妊娠中にナイアシンが不足したときの症状
妊娠中にナイアシンが不足すると、食欲不振や不安感、倦怠感、下痢、認知症などの症状が現れてきます。また口角炎などの皮膚炎がおこり、不足が深刻になってくるとペラグラという皮膚炎がおこります。(参照:国立健康・栄養研究所「ナイアシンとは?」)
こういった皮膚炎では顔や首や手、足などの日光に当たる部分に発赤や水疱、かさぶたができるようになり、身体の左右対称に色素沈着が起こるのが特徴です。ペラグラは日本では稀な病気であり、皮膚炎ではありますが、放っておけば死に至る重篤な病でもあるので甘く考えてはいけません。
またナイアシンは生体内でエネルギー産生、脂質やアミノ酸の代謝などに大きく関わる栄養であるため、妊娠中の母体や胎児の発育においては欠かすことができません。不足することで流産や先天性疾患、奇形などのリスクがグンと高りますから、こういった点についてもきちんと理解をし、不足することが無いよう注意していくことが大切です。
食欲不振や不安感については母体の健やかな精神状態を保つ上でもとても重要ですし、こういった影響は胎児の発育にも少なからず関わってきます。母子の健康には少しでもより良い状態を維持することが欠かせませんので、栄養不足による不調に悩まされることが無いよう努めていけなければなりません。
日本においてナイアシン不足は稀ではあるものの、飲酒量が多い、極度の偏食といった場合には注意が必要なので、この点についても心得ておきましょう。
特に妊娠中や産後は普段よりも摂取すべき栄養素が多くなるから注意が必要なのじゃよ。
過剰摂取するとどうなる?赤ちゃんへの影響は?
ナイアシンを摂り過ぎると、一時的に顔が赤くなる、むずがゆくなるといったフラッシング症状が起こることがあります。また胃腸障害や肝毒性、消化性潰瘍の悪化といった副作用もあるので注意が必要です。
妊婦のナイアシンの過剰摂取については、赤ちゃんが喘息になりやすいといったリスクもあるため、気をつけなければなりません。ただ通常の食生活を送っていればこれが過剰摂取になることはほとんどありませんし、サプリメント等を利用する場合にも大量利用をしなければ摂り過ぎることも無いでしょう。
摂り過ぎについて気をつけなければいけないのは、複数の薬やサプリメントを併用する場合であり、単体を用法・容量を守って利用するぶんには基本的に問題は起こりにくいです。
医師に処方された薬を服用しているといった場合には、飲み合わせや病気の治療への影響なども懸念されるため、サプリメント等の利用についてよく相談するようにしてください。
ナイアシンを摂り過ぎると初期症状として消化不良、下痢などが現れてきますから、サプリメントなどを利用してこういったことが現れるようになったら充分気をつけていきましょう。
妊活・妊娠中・授乳婦はどれくらい摂取すればいい?
ナイアシンの大切さについて説明をしてきましたが結局どれだけ必要か、また、普段どれだけ摂れているのかわからなければどうしようもないですよね。
そこで妊活・妊娠中・授乳婦の平均摂取量と、食事摂取基準を紹介していきたいと思います。平均摂取量はあくまで平均ということを忘れないでください。偏った食事をしている場合は通常よりも不足している可能性があります。
これから紹介する平均摂取量と食事摂取基準は厚生労働省の情報を参考にしています。
日本人女性(20歳~49歳)の平均摂取量
年齢 | ナイアシンの平均摂取量(mgNE) |
---|---|
20~29歳 | 12.2 |
30~39歳 | 12.7 |
40~49歳 | 12.9 |
18歳~49歳の食事摂取基準
年齢等 | ナイアシンの推奨量(mgNE) |
---|---|
18~29歳 | 11 |
30~49歳 | 12 |
妊婦(付加量) | +0 |
授乳婦(付加量) | +3 |
ナイアシンが多く含まれる食品厳選5つ
ナイアシンは、きのこ類や魚介類などに多く含まれます。米ぬかや酵母などにも多く含まれますが、きのこや魚介と比べると含有量は倍近く変わってくるため、これらを利用した方が効率良く摂取することができると言えるでしょう。またきのこや魚介は食材として調理しやすく、食べやすくもあるので、積極的に摂取していくことができるというのもメリットです。
ナイアシンを多く含む食品トップ5は以下になります。
- まいたけ
- たら
- インスタントコーヒー
- 鰹節
- 米ぬか
多い食品を積極的に利用することが当然理想的ではありますが、インスタントコーヒーのような嗜好品からも多く摂ることはできるため、自分に合った食品で上手く摂っていけるようにしましょう。(参照:食品成分データベース「ナイアシン」)
1.まいたけ
まいたけには100gあたりに64.1mgのナイアシンが含まれています。日常的に食べる食品では無いものの、炒め物、てんぷら、ホイル焼きなど様々な調理で楽しむことができるため、積極的に食べていくことをおすすめします。
工場栽培で作られているものも多いことから、1年を通して手に入れることができ、スーパーで気軽に調達することができます。妊婦のナイアシンの1日当たりの推奨摂取量は15mgですから、まいたけで換算するとこれを14~15gほど食べれば充分です。
決して食べるのが大変という量ではありませんから、毎日とはいかなくとも習慣的に積極的に献立に取り入れていけるようにしてみてください。
2.たらこ
まいたけに次いでナイアシンの含有量が多いたらこですが、これは100g中に焼きたらこであれば56.9mg、生たらこであれば49.5mgのナイアシンが含まれています。火を通すことでナイアシンの量が増えるので、加熱して食べるとより効率良く栄養を摂取することができるでしょう。
1日当たりの摂取推奨量を補うためには、焼きたらこであれば26g、生たらこであれば30g程度食べれば充分です。一口大程度の大きさですから、おかずとして1品プラスすれば充分な栄養を摂ることができるでしょう。ごはんはもちろんスパゲティなど洋食との相性も良いので、様々な調理で食卓に取り入れていくことができる、食べやすい食品です。
3.インスタントコーヒー
インスタントコーヒーには、100g中47mgのナイアシンが含まれています。ナイアシンを多く含む食品の中でも最も手軽に利用できる食品なので、摂りやすさや効率の良さを考えるとインスタントコーヒーを飲むのが一番効率が良いと言えるでしょう。
1日の摂取推奨量を補うためには、インスタントコーヒーを32g摂る必要があります。普通のマグカップで考えると大体コーヒー1杯に使用する粉は3gなので、1日当たり11杯弱飲む必要が出てきますが、これは現実的ではありません。そのため実際にコーヒーとしてこれを飲むよりは、調理などに隠し味として混ぜていった方が必要な量を摂りやすいでしょう。
4.かつお節
かつお節には、100g中45mgのナイアシンが含まれています。同じかつお節でも削り節となると37.4mg、なまり節だと35mgとその含有量は減ってくるため、含有量を考えるとかつお節そのものを摂るのが一番です。
しかし現実的に食卓に取り入れていくことを考えると、やはり利用をしやすいのは削り節だといえるでしょう。味噌汁などで出汁をとりつつそのまま具として食べたり、おひたしなどにふりかけて食べられるため、献立へも取り入れていきやすいといったメリットがあります。
1日の摂取推奨量を摂るためにはかつお節なら33g、削り節なら40gが必要です。積極的に消費していく必要はありますが、調理次第では簡単に摂ることができます。
5.米ぬか
米ぬかには100g中34.6mgのナイアシンが含まれています。1日の摂取推奨量を摂るには43gの米ぬかを摂る必要があります。しかし米ぬかというのはそもそもこれ自体を食べるものでは無いため、これを利用して必要なナイアシンを摂るといった考え方をするのは現実的では無いでしょう。
米ぬかを食卓に取り入れていくとすれば一番に思い浮かぶのはやはりぬか漬けです。しかしぬか漬けもまた漬けた野菜を食べるものであってぬか自体を食べるわけではありませんから、充分なナイアシンを摂れるかというとそれは難しいでしょう。含有量は多いものの、他の食品を利用していった方が遥かに栄養は摂りやすいです。
妊娠中のナイアシン摂取は葉酸サプリを推奨
妊娠中に必要とされるナイアシンを摂っていくためには、これを多く含む食品で献立を考え食事で補っていくよりも、サプリメントを活用していった方が効率が良いです。1日分数粒で必要なナイアシンを簡単に摂ることができますから、手間がかかりません。
ナイアシンを含むサプリメントは色んな種類がありますが、最もおすすめなのは葉酸サプリと言えるでしょう。葉酸は妊婦に必要な栄養であり、ナイアシンも充分な量を含んでいるため、これ1つで様々な栄養を効率良く摂ることができます。マルチビタミン対応の葉酸サプリメントなどもありますから、他のサプリと併用する必要無く1つで便利にりようできるものを探してみてください。
妊婦向けのサプリメントというのは非常に種類が多く、選択肢が充実しています。ナイアシン、葉酸、鉄、カルシウム、ビタミンなど色々な栄養をより手軽に摂ることができるよう様々なラインナップが揃っていますから、自分の求める栄養が上手く組み合わさったものを選んでいきましょう。
ドラッグストアなどでも手軽に購入することができますが、ネットで検索するとより様々な商品をチェックすることができて便利です。
まとめ
妊娠中におけるナイアシンの働きは、胎児の先天性疾患や異常、死産や流産のリスクを低下させるという非常に大きなものです。また授乳期においても母乳中のナイアシン濃度が高いと、12ヶ月時のアトピー性湿疹のリスクが低下することが解っているため、妊娠中に限らず産後においてもこの栄養が非常に重要なものであることが解ります。
ナイアシンは普通の食生活を送っていれば不足することはまれですが、妊娠中においては思うように食事ができないといったことも出てくるため、意識をして積極的に摂るよう心がけていった方が良いでしょう。
ナイアシンを多く含む食品を摂るといった方法を取るよりも、サプリメントを活用していった方が効率良く手軽にこの栄養を摂取できますので、これを賢く活用していってください。特に妊婦向けの葉酸サプリメントであればナイアシンはもちろん葉酸や鉄など妊婦に不足しがちな栄養がギュッと1つにまとまっていますから、とても重宝するでしょう。
母子ともに健やかに妊娠、出産、産後を過ごしていくためには、必要な栄養について不足することが無いよう備え補っていくことが欠かせませんので、安定・継続した補給の手段を確保していってください。