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産婦人科では教えてくれない?妊娠後期~産後のビタミンAの必要性!

妊娠後期~産後のビタミンAは摂取したほうがよい?

産後後期とは、妊娠8~10ヶ月、周期で言えば28~40週にあたる、赤ちゃんが生まれてくるまでの約3ヶ月。いよいよお産のための最終準備としてママも体調管理をしっかり行わなければなりません。

また、産後も赤ちゃんはママの母乳から栄養をもらいますから、妊娠後期・産後の授乳期もママの栄養管理は重要です。

妊娠後期~授乳期のママが特に必要とする栄養素は沢山ありますが、中でも「結局摂った方が良いの?摂らない方が良いの?」と疑問を呼ぶのが、ビタミンA。妊婦さんのビタミンA摂取に関しては賛否両論があり、混乱してしまうママもいるようです。

ビタミンAとは?

そもそも「ビタミンA」とは「レチノール」とも呼ばれる脂溶性ビタミンで、レバーや卵などの動物性食品に多く含まれています。

ヒトの体内では「レチノール」「レチナール」「レチノイン酸」という3つの活性型で存在しており、体内での働きを述べる際にはこれらをまとめて「ビタミンA」と呼んでいるわけです。

また摂取後体内でビタミンAに変換される「βカロチン」は植物性食品に多く含まれており、正確にはビタミンA(レチノール)ではないものの、体内の働きから「ビタミンA前駆体」「プロビタミンA」と呼ばれ、ビタミンAの仲間です。

ビタミンAの主な働きは、目や皮膚の粘膜を健康に保つことで、特にレチノールは視細胞で「ロドプシン」という光刺激反応物質の合成に欠かせない働きをするため、ビタミンAが不足すると薄暗いところでは視力が低下する「夜盲症」になる恐れがあると言われています。

ビタミンAは皮膚や粘膜の正常保持・視覚の正常化・成長および分化に関与しているため、不足すると皮膚や粘膜の乾燥・夜盲症・成長障害・胎児の奇形などを引き起こす恐れがあります (21) 。また、ビタミンAは脂溶性であることから過剰摂取にも注意が必要です。

また抵抗力・免疫力を強める栄養素でもあり、近年ではレチノールが上皮細胞で発がん物質を抑制する働きがあることも分かってきました。

ただ、ビタミンAは脂溶性であるため体内に蓄積されやすく、これが過剰症を引き起こすことから、特に妊婦の摂取については注意が促されているのです。

妊娠後期・産後にビタミンAはどんな働きをする?

皮膚や粘膜の健康維持や免疫力の維持に欠かせないビタミンAですが、特に妊娠後期の女性や産後授乳期に入る女性はビタミンA不足に注意しなければなりません。

というのも、ビタミンAには体の上皮、器官、臓器の細胞の成長や分化を助ける働きがあるため、これが不足するとお腹の中の赤ちゃんの成長が阻害されてしまいます。つまり胎児の成長障害、奇形といったリスクを高めてしまうのです。

赤ちゃんにそんなことが起きるんだ…。自分の健康面にはどんな影響があるの?

母体側としても、免疫力が低下することから菌やウィルスに対する抵抗力が弱まり、大事な時期に様々な疾患にかかりやすくなってしまう恐れがあります。

授乳期に入ると、ママが摂取する栄養が血液を介して母乳に流れ、これが赤ちゃんの主な栄養源となるのですが、ビタミンAが不足していれば赤ちゃんの免疫力も低下し、皮膚や粘膜組織の成長を阻害したり疾患を引き起こしたりする危険性があります。

具体的には、皮膚粘膜の乾燥、肥厚、角質化、視細胞への影響としては夜盲症、角膜・結膜上皮の乾燥・角質化が挙げられます。授乳期間を過ぎた場合でも、小児にビタミンAが慢性的に不足していると成長が停止することさえあるとのことです。

妊娠後期・産後に必要なビタミンAの量はどれくらい?

ビタミンAの摂取基準は、レチノールのみでなくレチナールとレチノイン酸、また前駆体であるβカロテン・αカロテン・βクリプトキサンチンその他全てのプロビタミンAカロテノイドを合算して算出し、「RAE」という単位で表します。

この算出結果から、一般の18~29才及び70歳以上の女性であればビタミンAの推定平均必要量は450μgRAEで推奨量は650μgRAE、30~69才の女性の平均必要量は500μgRAEで推奨量は700μgRAE。妊娠中や授乳中はこれらに「付加量」を加算します。

妊娠初期~妊娠中期は付加量が「0」なので必要量及び推奨量はそのままです。妊娠後期になると必要量は+60の付加量、+80の推奨量となり、例えば30代妊娠後期の女性であればビタミンAの必要量は1日当たり560μgRAE、推奨量は580μgRAEということになります。

胎児へのビタミン A の移行蓄積量を付加する必要がある。37~40 週の胎児では、肝臓のビタミ
ン A 蓄積量は 1,800μg 程度であるので、この時期の体内ビタミン A 貯蔵量を肝臓蓄積量の 2 倍と
して、3,600μg のビタミン A が妊娠期間中に胎児に蓄積される 16,17)

授乳中になると付加量は5倍近くに跳ね上がり、平均必要量は+300μgRAE、推奨量は+450μgRAE。30代の授乳婦であれば、必要量は1日当たり800μgRAE、推奨量は1150μgRAEとなります。

ちなみにこの「推定平均必要量」とは50%の人が必要量を満たす量、「推奨量」とは97.5%の人が必要量を満たす量ということなので、目標値としては推奨量を満たす方が良いと言えます。

妊娠後期・産後の推奨量と平均摂取量の比較表

厚労省の推奨量 平均摂取量 不足分
ビタミンA(μg) 1125 510 615
ここでワンポイント厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」の情報を参考にしています。

ビタミンAを過剰摂取・不足するとどうなる?

既に触れた通り、ビタミンAは粘膜や皮膚組織の健康維持、免疫力の維持などにも欠かせない栄養素。妊娠中・授乳中であるないに関わらず不足すると健康上望ましくありません。

そのうえ妊娠中・授乳中はママ自らの栄養素を使って赤ちゃんを育てる時期ですから、非妊娠時の必要摂取量に赤ちゃんの分も加えた「付加量」を摂取しなければならないのです。

しかし一方で気になるのはビタミンAの過剰症。ビタミンAは摂取しすぎても健康被害をもたらすというのは事実ですが、実は気をつけるべきは「ビタミンA」のうちの「レチノール」と「レチノイン酸」です。

ビタミンAを過剰摂取したときの症状

ビタミンAを1日10000IU以上連日摂取すると奇形児のリスクが高まるとの報告から、日本の厚生労働省によると、妊婦のビタミンA摂取は上限許容量5000IUまでと指定しています。1IU=0.33μgRAEなので、言い換えれば上限許容量は1650μgRAE/日ということになります。

具体的には、妊娠12週までにビタミンAを15000IU連日摂取すると、脳室が正常より肥大し脳脊髄液が脳を圧迫して脳機能を阻害する「水頭症」や、軟口蓋や硬口蓋が閉鎖しないあるいは口蓋の一部に裂け目が生じる「口蓋裂」などの胎児奇形が発生するリスクが3.5倍高まると発表されています。

ただし、大きくはビタミンAに分類されるもののβカロテンなどのプロビタミンAにはそのような胎児奇形の発症リスクはなく、問題となるのは動物性由来のビタミンA、レチノールやレチノイン酸であることが分かっています。

ここでワンポイント動物性由来のビタミンA、「レチノール」「レチナール」「レチノイン酸」はそれぞれ体内で相互に変換が可能なのですが、唯一レチノイン酸はレチノールに変換できないため、特にレチノイン酸が体内で溜まりやすくこれが胎児奇形に繋がるとされています。

ビタミンAを不足したときの症状

ビタミンA不足による欠乏症として挙げられるのは、夜盲症、乾燥眼炎、皮膚や粘膜の角質化、色素沈着、感染症に対する抵抗力低下、また性腺の変性退行から不妊症の原因になることも指摘されています。

特に乳幼児に関しては、ビタミンA不足により成長不良や成長の停止、骨や歯の発育不良・変形、更には角膜乾燥症から失明に至ることもあり、特に後進国においてビタミンA不足による子供の失明や発育不良が問題になっています。

日本でもビタミンAを不足したりするの?

日本においてはビタミンA不足が問題になることは殆どありませんが、0才児のビタミンA摂取基準目安量として、5ヶ月までは300μgRAE、11ヶ月までは400μgRAEが提案されています。

食品で言えば卵1個分に相当するわずかに思える数値なのですが、乳幼児はこのビタミンAを母親の母乳から摂取する必要があるため、授乳婦のビタミンA推定平均必要量は通常のプラス300μgRAE、推奨量はプラス450μgRAEとされているのです。

ビタミンAはβカロテンから摂れば問題なし

ママや赤ちゃんが過剰症を引き起こす危険性を考えると、過剰摂取を心配せずに安心してビタミンAが摂れる「プロビタミンA」がお勧めです。

プロビタミンAにはαカロテン、βカロテン、γカロテン、クリプトキサンチンなどがありますが、中でも有名なのはβカロテンで、これらプロビタミンAの中でも最もビタミンA効果が高い栄養素と言われています。

βカロテンに代表されるプロビタミンAは、摂取すると小腸上皮細胞においてビタミンAに変換されます。この変換率が最も高いのがβカロテンというわけなのですが、それでも摂取したβカロテン全てがビタミンAに変換されるわけではありません。

ビタミンAの過剰摂取に注意しよう

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ビタミンA変換率及び体内吸収率から鑑みて、ビタミンAの主要成分レチノールの約6分の1、16%程のビタミンA効果を発揮すると考えられます。

つまり成人女性のビタミンA摂取上限量2700μgRAEに相当するだけのβカロテンを摂ろうとした場合、それはレチノールの6倍以上の量を摂取しなければならないということになるのですが、例えそれだけのβカロテンを摂取したからといって過剰症を発症することはありません。

というのも、βカロテンは、体内ビタミンA量が十分であればそれ以上ビタミンAに変換されないという特徴を持っているからです。そのうえβカロテンには強い抗酸化作用もあり、細胞の老化を防いでがん予防にも効果を発揮してくれます。

カロテンを摂ることができる食材を紹介

カロテンは「カロテノイド」の中に分類される植物色素で、カロテノイドの中にはビタミンAに変換されるプロビタミンA(αカロテン・βカロテン・βクリプトキサンチンなど)と、ビタミンAに変換されないリコピンやルテイン等のポリフェノールが存在します。

プロビタミンAのうち最もビタミンA変換効率が良いのがβカロテンであるため、各食品が含有するプロビタミンAカロテノイドの総量は、「βカロテン当量(μg)」として「βカロテン+αカロテン×1/2 βクリプトキサンチン×1/2」という計算式で算出することができます。

βカロテンってなにで摂れるの?

ここからはβカロテンを摂れるものとその量を解説していきます。

βカロテン当量が高い食品の代表選手は人参で、100gあたりのβカロテン当量は8600μg。それ以上に高いのはモロヘイヤ(10000μg/100g)やシソ(11000μg/100g)ですが、毎日の食事で摂りやすいのはやはり人参かもしれません。

またほうれん草(ゆで)には100gあたり5400μg、春菊(ゆで)には5300μg、西洋カボチャには4000μgのβカロテンが含まれています。

またビタミンAそれ自体は脂溶性ビタミンであるため、効率よく摂取するにはこれら緑黄色野菜を油で調理すると良いでしょう。

レチノールからの摂取は気をつける

既に何度か触れた通り、過剰症の心配があるのはビタミンAのうち、レチノールやレチノイン酸などの動物性ビタミンAです。体内で必要量だけビタミンAに変換されるカロテンとは異なり、必要以上に摂取すればそれらが全て肝臓に蓄積されてしまうためです。

ビタミンA過剰症になると頭痛や嘔吐、眩暈、脱毛、肝障害などの症状が現れ、特に妊婦の場合胎児に先天異常が起こるリスクが高まります。

とはいえ最近の調査によると、ビタミンA過剰摂取による奇形児の報告は主にサプリメントから摂取したレチノイン酸が原因であり、動物性食品から摂るレチノールは問題ないという意見もあります。

しかしこの点に関しては今のところまだハッキリとしたことは分かっていませんから、既に科学的に安全性が証明されているカロテンからビタミンAを摂取する方が安全・安心でしょう。

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レチノールを多く含んだ食材を紹介

一般の成人女性のレチノール当量上限値は2700μgRAEですが、妊娠中の女性は胎児への影響を考え1日当たり1650μgRAEまでに留める方が望ましいとされています。

一方妊娠後期のレチノール当量推奨量は1日当たり780μgRAE、産後授乳期になると1150μgRAEとなり、βカロテンからではなく動物性食品からレチノールとして摂る場合にはよく計算し、バランスを取ることが大切でしょう。

レチノールはレバー類に多く含まれている

レチノール当量の高い食品としては、鶏レバー(14000μg/100g)や豚レバー(13000μg/100g)、アンコウの肝(8300μg/100g)などのレバー類。

またウナギもレチノールを多く含んでおり、かば焼きの状態でも1500μg/100g、肝になると4400μg/100gも含んでいます。妊婦がウナギやレバーの摂取に気を付けるようにと言われているのはこのためです。

他には、卵黄(470μg)、いくら(330μg)、ホイップクリーム(320μg)、チーズ(240μg)などにもレチノールが多く含まれています。

推奨量から葉酸サプリの必要性が高い

このように動物性食品やサプリメントから摂取すると過剰症の心配があるビタミンAですが、一方で唯一、厚労省からも妊活中および妊娠中~授乳期にかけてサプリメントで必要量を補うよう推奨されているのが、葉酸です。

一般の女性に対して推奨されている1日当たりの葉酸摂取量は240μgなのに対し、妊活中~妊娠初期にかけての推奨量は640μg。

妊娠中期~後期にかけては480μg授乳期は340μgとなっていて、普通の食事で摂取できる葉酸量は1日当たり大体240gであるため、妊活中から授乳期にかけては400~100μgの葉酸不足分を、サプリメントで補うと良いとされているのです。

推奨量を超えて過剰摂取になってしまうとどうなるの?

まず、葉酸には耐用上限量があり、厚労省ではこれを18~29才女性で900μg、30~49才女性で1000μgと定めています。

これを超えた量を連日摂取した場合、吐き気や浮腫み、頭痛や不眠などの過剰症、更には妊娠後期の女性が過剰摂取した場合には、生まれた子供が喘息を発症するリスクが高まるという報告もなされています。

ビタミンAを意識するよりも食事バランスを意識

過剰摂取の心配はあるものの、ビタミンAも妊娠中や授乳中のママに必要な栄養素です。ただ、「妊婦に必要な栄養素」にはこれ以外にも葉酸を筆頭に、鉄分、カルシウム、DHA、EPA、たんぱく質、亜鉛、ビタミンC、ビタミンD・・・と数えきれないほどあります。

これらすべての摂取推奨量を調べ毎日それに相当する食事を摂る・・・なんて大変ですし、そんなことばかり考えていては食事自体がストレスになってしまいます。ですから妊娠中や授乳中の食事は、シンプルに「バランスのとれた食事」を心がけましょう。

一般に「一汁三菜」などと言われますが、その通りご飯やうどんなどの炭水化物を主食として、肉や魚などのたんぱく質1皿、ビタミンを多く含む野菜や海藻料理を2皿、具たくさんの味噌汁やスープを1皿摂るように心がけてください。これで必要な栄養素を適度に摂ることができるはずです。

しんどくてご飯が食べられないはどうしたらいい?

体調が悪いなどでどうしても食べられない時は、サプリメントなどで補うといいでしょう。葉酸サプリは妊婦さん向けに作られているので、安全で安心して飲めます。

まとめ

ビタミンAが不足すると特に目の角膜や粘膜がダメージを受け、視力低下や夜盲症、ひどい場合には失明することもあり、発展途上国では大きな問題になっています。

しかしこのようなビタミンA不足は、飽食の現代日本で起こることはまずないでしょう。むしろ心配されるのは、サプリの服用や動物性ビタミンAを大量に食べることで起こる危険性のある、過剰症の方です。

特に妊娠中の女性が過剰にビタミンAを摂取した場合、胎児の奇形リスクが高まるとされています。妊娠後期の女性の場合、ビタミンA推奨摂取量は780μgRAE/日、耐用上限量は2700μgRAEとなっているため、バランスを取ることが大切でしょう。

その点、過剰症の心配なく摂取できるのがβカロテンを代表とする植物性プロビタミンAです。プロビタミンAは緑黄色野菜に多く含まれており、同時に食物繊維やビタミンCなどの栄養素も摂ることができるため、意識的に毎日の食事に取り入れるようにしましょう。

  • ビタミンAには「レチノール」と「β-カロテン」の2種類がある
  • ビタミンAは細胞の成長や分化を助ける。不足すると赤ちゃんの成長が阻害される
  • 産後になるとビタミンAの不足量が多くなる
  • ビタミンAを摂るにはサプリがおすすめだが過剰摂取に気をつけなければいけない