基礎知識

妊娠糖尿病ってなに?実は10人中1人が発症する危険な病気だった!

実は危険な妊娠糖尿病

生活習慣病として有名な糖尿病ですが、これまで診断されたことがなくても妊娠したときに突然「妊娠糖尿病」だと診断されることがあります。

「糖尿病に気をつけていたのに…」と思う方もいるでしょう。しかし、妊娠糖尿病は気をつけていても妊娠中なら誰でも発症する可能性があります。

今回はそんな「妊娠糖尿病」について解説していきます。なぜ誰にでも発症するのか、どのような症状が起こるのか、どんな治療を行うのか、ぜひすべてを確認してください。

妊娠糖尿病とは?

妊娠の影響によって発症する糖代謝異常には2種類あります。「妊娠糖尿病」とはそのうちの一つで妊娠中にはじめて発見される糖代謝異常です。

糖代謝異常のもう一つは「妊娠中の明らかな糖尿病」と言い、こちらも同様に妊娠中にはじめて発見されるものですが、妊娠糖尿病には含みません。

妊娠糖尿病は「血糖値が正常よりも高いが糖尿病と診断するほど高くない」、妊娠中の明らかな糖尿病は「明らかに血糖値が高くて妊娠中に判明した糖尿病」という違いがあります。

そのため、妊娠糖尿病よりも妊娠中の明らかな糖尿病のほうがより重度の状態です。

ちなみに妊娠前から糖尿病の人は何て呼ぶの?

元々妊娠前から糖尿病を患っている方は「糖尿病合併妊娠」というのじゃ。

妊娠糖尿病の症状・合併症とは?赤ちゃんに影響は?

妊娠中に高血糖になり、妊娠糖尿病になるとお母さんだけではなく、へその緒で繋がった赤ちゃんも高血糖となり、さまざまな症状・合併症を引き起こすかもしれません。

糖尿病になると「すぐにのどが渇く、水を飲む回数が増える」「トイレに行く回数が増える」「体重の減少」「疲れやすくなる」などの症状が現れます。

ただ、これらの症状は妊娠するとよくある症状なので、自覚することが難しく妊娠糖尿病が原因かどうか判断するのは難しくなっているのです。

さらに血糖値が上がって悪化すると意識障害が起こり、命に関わってきます。糖尿病はこれ以外にも合併症の危険性があります。

(参照:日本産科婦人科学会「妊娠糖尿病」)

妊婦さんに起こりうる合併症

お母さんに起こりうる合併症は妊娠高血圧症候群、羊水の量が増加、肩甲難産、網膜症などがあります。

肩甲難産とは出産のときに赤ちゃんの頭が出たあと、肩甲骨が引っかかって出られない状態のこといいます。

リスクは1%未満とかなり低いのですが糖尿病になることで、赤ちゃんが4000g以上の巨大児となり肩甲難産になるかもしれません。

注意してね!糖尿病になると出産にまで影響を及ぼしてしまうのです。

赤ちゃんに起こりうる合併症

お腹の赤ちゃんが糖尿病になると流産や巨大児、心臓の肥大、形態異常(奇形)、黄疸(おうだん)などの合併症が現れる可能性があります。

黄疸とはビリルビンと呼ばれる色素が血液中に増加し、皮膚や眼球が黄色く染まった状態のことをいいます。黄疸は新生児によく見られるため、糖尿病とは無関係の場合もあるので注意してください。

糖尿病になるとお腹の赤ちゃんへの影響は大きく、最悪の場合は流産、胎児死亡の可能性もあります。そのため、放っておくことだけはやめましょう。

妊娠糖尿病の原因と発症率

まず、私たち人間は食事をしたときエネルギー源であるブドウ糖(血糖)が血液の中で増えていきます。

そのとき「インスリン」と呼ばれる血糖を増えすぎないように、一定の範囲に抑える働きがあるものを分泌して糖尿病を防いでくれるのです。

しかし、妊娠をすると胎盤から赤ちゃんの成長のためにホルモンが分泌されるのですが、そのホルモンの影響でインスリンの分泌量は十分だが、効果を発揮することができなくなってしまいます。

その結果、血液中の糖の濃度は高くなっていき妊娠糖尿病を発症します。このホルモンは妊娠期間が進めば進むほど分泌されるため、妊娠後期に妊娠糖尿病になる人が多いといわれているので、妊娠後期の方は注意しましょう。

以前までは妊娠糖尿病の頻度は2.9%ほどだといわれていたのですが、診断基準が変更され約12%ほどだと考えられています。

ただ、この数字は全員に試験を行った場合を想定した数字なので、実際は若干少ない「7~9%」だと考えられています。

(参照:妊娠糖尿病・妊娠学会「糖尿病と妊娠に関するQ&A」)

糖尿病って食べ過ぎとかが原因かと思っていた。

そうじゃな。それも糖尿病の原因は一つだけじゃなく、妊娠糖尿病のようにホルモンが原因の場合もあるのじゃ。

妊娠糖尿病の検査と診断基準

妊娠糖尿病は「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」という血液検査(採血)を行います。

具体的な検査方法は10時間以上ご飯を食べず、空腹の状態で病院に行きます。それから空腹状態で血液検査を行います。

血液検査を行った後に75gのブドウ糖が入ったソーダ水を飲み、しばらくしてからもう一度血液検査を行います。

ブドウ糖が入ったソーダ水を飲む前と後の血糖値を調べて糖尿病か診断をするのです。簡単に流れをまとめると以下になります。(参照:糖尿病情報センター「糖尿病と関連する検査」)

  1. 10時間以上空腹の状態で病院へ
  2. 空腹のまま血液検査
  3. 75gのブドウ糖が入ったソーダ水を飲む
  4. しばらくしてからもう一度血液検査
  5. ソーダ水を飲む前と後の血糖値を調べる

3つの診断基準を確認

上記の検査を行って、以下の基準に1つでも満たした場合妊娠糖尿病だと診断されます。

  • 空腹時の血糖値が92mg/dL以上
  • 1時間後の血糖値が180mg/dL以上
  • 2時間後の血糖値が153mg/dL以上

妊娠糖尿病だと診断された場合、治療が開始されます。

妊娠糖尿病の治療内容

妊娠糖尿病になると、まずは食事を改善して血糖をコントロールする食事療法を行います。

適切な摂取方法は活動量や妊娠中の経過具合など個人によって修正されることがありますが、基本は以下の6つを行います。

  1. 適切なカロリーをとる
  2. 栄養バランスを考える
  3. 規則正しい食事をとる
  4. 鉄の多い食品をとる
  5. カルシウムの多い食品をとる
  6. 塩分は控えめにする

その他にも食事療法として「分割食」があります。1日3回規則正しい食事を取っても血糖値が高い場合は1日6回の食事に分けて、1度の食事での血糖値を抑える方法です。

ここでワンポイント方法は朝昼夕の間に3回の間食を挟みます。間食はおにぎりや焼き芋、ヨーグルト、サンドイッチなど簡単なもの(80kcal~160kcal)を食べます。

食事療法にあわせて運動療法を行うことは糖尿病に効果的なんですが、妊娠の状況によっては運動が出来ない場合もあります。

運動によって危ないこともあるので、一度担当の医師に相談をしてから運動をしましょう。そのときにどのような運動が良いのかなども相談するといいでしょう。

食事と運動で血糖値の改善が見られない場合は「インスリン療法」を行います。飲み薬で治療を行うとお腹の中の赤ちゃんにまで届いてしまう可能性があるため、インスリン注射で管理をします。

妊娠後期に近づけば近づくほどインスリンの働きが弱くなるため、インスリン注射の量は増えていくので知っておいてください。ただ、産後になれば量を減らすか、使わなくなるので安心してください。

インスリン注射も考えないといけないんだね。

そうじゃな。ただ、できるかぎり治療は食事療法で、インスリン注射は最終手段だと思っておくといいぞ。

妊娠糖尿病を予防する方法は?

妊娠糖尿病になりやすい人として「糖尿病に家族がなったことがある、肥満、35歳以上、巨大児の出産経験、原因不明の習慣流産・早産、先天奇形児の出産歴、妊娠高血圧症候群」などが挙げられます。

ほとんどが予防のできないことですが「肥満」だけはできます。糖尿病にならないためにも食事の栄養バランスや生活習慣を改善しましょう。

まれに病気が原因で糖尿病を発症している可能性があります。その場合は予防をすることは大変です。しかし、できることもありますのでできることから改善しましょう。

産後も糖尿病は続く?産後の注意点について

妊娠糖尿病は妊娠によるホルモンの分泌によってインスリンの働きが弱くなって起こることなので、多くの場合が一時的なものであり、出産後は治ることがほとんどです。

治ることがほとんどですが、産後も定期的に糖尿病の検査を受けることを推奨しています。妊娠糖尿病になった人は産後3ヶ月~6ヶ月の検査で約5%が糖尿病に、全体の25%が耐糖能異常があったと報告されているので検査をなるべく受けましょう。

産後1年以内で集計すると2.6%~38%産後5年~16年で集計すると17%~63%の頻度で発症すると報告されています。

妊娠糖尿病は産後に治りますが、その後糖尿病を高確率で発症するといわれ、その発症率は正常な妊婦さんの約7倍であると報告されているのです。

妊娠糖尿病は産後に治ることがほとんどですが、その後糖尿病になる確率が高いので定期的に検査を受け、正しい生活習慣を送るようにしましょう。

産後も糖尿病になることがあるんだね。

産後に糖尿病なってしまう確立が高いから産後も検査してもらうのじゃぞ。

まとめ

糖尿病は生活習慣の乱れなどが原因で起こりますが、妊娠するとホルモンの影響によって起こることがあります。

糖尿病による症状は妊娠したときに起こる症状と似ており気づきにくいのですが、合併症を起こすと母子ともに命の危険に及ぶこともありえます。

発症率もおよそ10人に1人と高いため、妊娠してから一度検査を受けておくことも考えておくといいでしょう。

糖尿病の予防、肥満のダイエットとして「糖質制限ダイエット」がありますが、糖は赤ちゃんの栄養となり、少なすぎると成長に影響を及ぼすことがあります。

そのため、自己判断で糖質制限などは行わず、きちんと担当の医師に相談をしてから血糖管理をすることが大切です。

  • 妊娠糖尿病とは糖代謝異常の一つ
  • 妊娠によるホルモンの影響で発症する
  • 発症率は10人に1人と高い
  • 症状よりも合併症が母子ともに危険
  • 検査は「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」を行う
  • 基本的に治療は食事療法を行う。改善されなければインスリン注射を行う