厚生労働省は神経管閉鎖障害のリスクを低減するために、妊娠前から葉酸の摂取を推奨しています。
「神経管閉鎖障害のリスク低減」や「妊娠しやすい体作り」などのイメージが浮かびやすい葉酸は、実は妊娠中に多いトラブルの一つ”貧血”を予防することにも期待ができるのです。
また、貧血というと予防と改善するためには葉酸ではなく鉄を摂取するものだと思いますよね。鉄の摂取も大切なんですが、葉酸も摂取する必要があったのです。
貧血とは?
貧血とは血液中のヘモグロビン濃度が低下している状態のことをいいます。ヘモグロビンとは赤血球の中に含まれる構成する物質で、酸素を体中に運搬する役割があります。
赤血球が増加することによって一緒にヘモグロビンも増加していきます。反対にヘモグロビンの成分である鉄を不足するか、作る能力が低下してきたりすると、貧血になってしまうので気をつけましょう。
貧血といっても1種類だけではなく「鉄欠乏性貧血・再生不良性貧血・悪性貧血」といった数種類の貧血に分けられます。
母体が貧血になってしまうと赤ちゃんにまで影響を及ぼして、「胎児貧血」や「子宮内胎児発育遅延(IUGR)」といった原因になる可能性があります。そのため、予防は大切です。
貧血になると、自分だけじゃなくて赤ちゃんにまで影響あるのね…
そうじゃよ。妊娠すると今まで貧血になったことない人も貧血になることもあるから注意が必要じゃぞ。
鉄欠乏症貧血とは
鉄欠乏症貧血は鉄を不足することによって起こる貧血です。妊娠時は鉄を摂取すると、ほとんどが赤ちゃんに送られていくため不足しやすくなっています。
貧血のほとんどが鉄欠乏症貧血だといわれています。WHO(世界保健機関)の調査によると全人口の30%が鉄欠乏症貧血と報告されているのです。
再生不良性貧血とは
再生不良性貧血は血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。この状態を汎血球減少症と呼びます。
再生不良性貧血とは血液中の赤血球、白血球、血小板の全てが減少していく疾患です。貧血以外にも白血球による感染防止が働かないため、発熱や出血などの症状も起こります。
この貧血が起こる原因は分かっておらず、生まれつき起こる「先天性」と何らかの原因によって起こる原因不明の「特発性」の2種類に分かれます。
それ以外にも薬剤や薬物、放射線などによる二次性もあるのですが、これらは原因を特定できないこともあります。
悪性貧血とは
日本内科学会雑誌「悪性貧血について」によると、悪性貧血とはビタミンB12または葉酸の欠乏によって起こるものです。欧米に比べて日本は発症頻度が低いものの、年間発症率は10万人に1人~5人とされています。
2012年は年間で469件もありました。貧血の症状以外にも末梢神経障害による知覚異常や知覚が鈍感で麻痺するなどの症状がでてきます。
さらに進行すると歩行障害などにも繋がってきます。貧血の中でも症状が進行すると危険なものなので、葉酸とビタミンB12はとくに不足しないようにしましょう。
貧血による症状
- 息切れ・動悸・倦怠感
- 顔色が悪い・顔面蒼白
- 起立性低血圧・立ちくらみ
- その他(朝起きにくい・首や肩が凝りやすい・頭痛がするなど)
上記の症状が貧血による自覚症状です。貧血の症状は急激に発症した場合と、ゆっくり発症した場合では違ってきます。
そのため、自覚症状からでは貧血の程度を判断することは難しくなっています。実際に健康診断で初めて自分が貧血だと気づく人もいるほどです。
「貧血とは」のところでも説明をしていますが、貧血は母体だけではなく、赤ちゃんにも大きく影響を与える可能性があります。しっかりと貧血かどうか判断しておくといいでしょう。
貧血ってめまいのイメージがあったけど、他にも症状がたくさんあるのね。
貧血はめまいだけではないから、少しでも異変を感じたら担当の医師に相談するのじゃぞ。
息切れ・動悸・倦怠感
貧血になるともっとも多いのが「息切れ・動悸・倦怠感」の3つです。普段、普通に歩いていた距離や上っていた階段で疲れるといったときに自覚しやすいです。
これらは、心肺の病気でも見られることで貧血特有の症状ではありません。そのため、「貧血かな?」と思っていたのが心肺の病気だったり、反対に「心肺の病気かも」と思っていたら貧血だったということもありえるのです。
顔色が悪い・顔面蒼白
貧血になることで血行が悪くなり、顔色が悪くなるまたは顔面蒼白になってしまいます。まれに顔色が黄色に見えることもあります。
起立性低血圧・立ちくらみ
立ちくらみをするっていうことは脳が貧血状態だと訴えているのです。起立性低血圧とは座っている状態または寝ている状態から急に立ち上がると「めまい・頭痛・手足のしびれ」などの症状がでてきます。
立ちくらみも息切れとかと同様に貧血だけの症状ではないので、他の病気のことも考えておきましょう。
その他
その他には「朝起きるのが辛い」「首や肩がこりやすい」「夏になるとだるくなりやすい」「頭痛がする」などの症状があります。
貧血が治ったあとにこれらの症状が消え、貧血によるものだったのかと気づく人もいます。
妊婦の貧血の原因
妊婦の主な貧血は「鉄欠乏症貧血」によるものです。文字通り、鉄を不足することによって起こる貧血になります。
研修医のための必須知識「産科疾患の診断・治療・管理」によると妊婦の貧血の90%以上は鉄欠乏症貧血です。妊娠中はお腹の中にいる赤ちゃんに栄養を送る必要があるので、たくさんの血液が必要になってきます。
つわりが治まる妊娠中期・後期になるとお腹の赤ちゃんも大きくなり、初期よりもたくさんの血液が必要になってきます。また、後期は出産も近くなり、出産時の出血にも備えなくてはいけません。
妊娠時は赤ちゃんのためにも血液がたくさん必要になるのですが、初期のつわりが原因で始まり、出産まで満足に血液を作ることができず、貧血になっている人がたくさんいます。
貧血の90%以上が鉄不足が原因だったのね!
そうじゃ、しかし100%ではないからしっかりと何が原因か検査してもらうのじゃぞ。
貧血を改善するためには
妊婦に多いとされる鉄欠乏症貧血を改善するためには「鉄」を摂取する必要があります。「Fe(鉄)剤」は使用せず、食事から治すことを目標とした、食事療法で改善を図るのです。
血液の数値が極端に低い場合は、食事療法に加えてFe剤の投与をおこなって治療をするのです。基本は経口投与で行われるのですが、つわりなどで口から投与するのが難しい場合は注射で投与されます。
鉄欠乏症貧血ではなく、「悪性貧血」だった場合は鉄が原因ではなく「ビタミンB12」または葉酸の不足が原因なので、それぞれもしくは同時に補給できるように食事療法を行うのです。
再生不良性貧血だった場合、原因の特定が難しいのでできるだけ薬剤や薬物などを避けます。原因となっている薬物などがわかっている場合は薬物を中止し、輸血、抗生物質、ステロイドの投与が行われます。
鉄欠乏症貧血だから鉄だけでいいと思ってたわ。
鉄を摂ることも大事じゃが、葉酸やビタミンB12を摂ることも大切じゃぞ
なぜ鉄だけでなく葉酸も摂取しないといけないの?
葉酸は細胞分裂を促進し、赤ちゃんの発育には欠かせない存在ですが、実は「造血ビタミン」とも呼ばれているのです。
貧血になると鉄を摂ることも大切ですが、鉄を摂りすぎると血液に鉄が異常なほど増えてしまいます。鉄は増えていっても排泄はされず、心臓や肝臓などの臓器に溜まっていきます。
臓器に溜まりすぎると、心不全や肝硬変などの臓器障害をもたらす可能性があります。そのため、鉄以外にも造血作用のある葉酸を摂取する必要があるのです。
葉酸はサプリメントで摂取しよう
葉酸は鉄と違って食事からの摂取がとても難しくなっています。鉄は摂取すれば、ほとんど吸収することができますが、葉酸はできません。
葉酸は水溶性ビタミンの一つで、熱や光によって失われていきます。そのため、葉酸をたくさん含んだ食材でも常温のまま置いていたり、光のあるところに置いておくと失っていきます。
さらに食材から摂れる葉酸は体内で変換されて吸収を行うため吸収効率が悪く、ここでも半分ほど失ってしまいます。そのため、最終的に摂れる葉酸は1/4ほどになっています。
葉酸の必要量を摂るためには単純に4倍もの量を食べないといけません。妊娠していなくても大変な量です。しかし、サプリメントなら吸収しやすいようになっているので食べる量を増やさなくても摂取することができます。
厚生労働省「神経管閉鎖障害のリスク低減のために」で厚生労働省も葉酸の吸収効率の悪さからサプリメントで摂取するように呼びかけているほどです。
まとめ
妊娠中、貧血になる人は増えてきています。貧血になると立ちくらみなどの症状がでてきます。立ちくらみによって、腹部に打撲をしてしまっては大変です。
また、貧血によってお腹の赤ちゃんに栄養が送られなくなると早産や未熟児の原因にもなってしまいます。貧血を改善するためには食事の栄養バランスを整えることが大切です。ただ、妊娠中はつわりなどが原因で食べられないこともあると思います。
理想は食事からの摂取ですが、難しい場合は葉酸サプリを利用してみてはいかがですか。食事を取れる余裕ができてくれば、やめればいいでしょう。健康な赤ちゃんを生むためにも、葉酸サプリの摂取を一度考えてみてください。