妊娠中はつわりや便秘、貧血などさまざまなトラブルが起こりうるものです。その中でも気をつけてほしいのが「妊娠高血圧症候群」。
名前の通り、妊娠中に高血圧になる病気なんですが、高血圧といっても「怒りっぽくなる」「少し具合が悪くなる」といったイメージをする人も多いのではないでしょうか。
それは間違ったイメージで妊娠高血圧症候群になると、赤ちゃんの成長や母体に悪影響を及ぼす可能性があるのです。今回は妊娠高血圧症候群についてと、予防に有効といわれている「葉酸」についても解説していきます。
妊娠高血圧症候群とは?定義は何?
妊娠高血圧症候群はもともと「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、2005年4月から定義と分類が変更され、妊娠高血圧症候群と名称が変更されました。
妊娠中毒症と呼ばれていたときは「高血圧・たんぱく尿・浮腫(むくみ)」のいずれか、または2つ以上の症状が現れたときに診断されていました。
しかし、海外での研究などの考えから高血圧が重要視されるようになり、今では妊娠高血圧症候群は「妊娠20週~産後12週までに高血圧になった場合、またはたんぱく尿が伴う場合のいずれか」だと定義されています。
妊娠高血圧症候群には「妊娠32週未満の早発型」と「妊娠32週以降だと遅発型」の2種類に分類されます。遅発型に比べて早発型のほうが重症化しやすいので注意が必要です。
どうして、早発型のほうが悪化しやすいの?
早発型は赤ちゃんの身体が小さいから、悪化もしやすくなりやすいのじゃ。
高血圧の診断基準はどれくらい?
高血圧だと認められる高さは「上が140以上~160mmHg未満」、「下が90以上~110mmHg未満」です。この範囲だと”軽症”の妊娠高血圧症候群と呼びます。
収縮期血圧が140mmHg以上(重症では160 mmHg以上)、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上(重症では110 mmHg以上)になった場合、高血圧が発症したといいます。
上が160mmHg以上、下が110mmHg以上になると”重症”の高血圧症候群です。
妊娠中は赤ちゃんのことなどで血流の量が増えたり、血圧が変化しやすくなっています。そのため、妊娠していない通常の診断基準とは高血圧が違うので注意してください。
妊娠高血圧症候群の原因は?発生頻度は?
妊娠高血圧症候群が起きる原因というのは残念ながら解明されていません。血液の末梢循環不全など色々なことが原因だと考えられているのですが、なかでも、子宮か胎盤の異常が関係していると考えられます。
原因は不明ですが発生頻度は高く、妊婦全体の7~12%に見られるといわれているのです。つまり、10人に1人の妊婦さんが高血圧に悩んでいます。
原因は不明ですが、妊娠高血圧症候群になりやすい人の特徴があるので、ぜひ自分はなりやすい人なのかチェックしておきましょう。
10人に1人って結構な確率だね…
そうじゃ。他人事ではないから、次に説明する「なりやすい人」をチェックしておくのじゃぞ。
妊娠高血圧症候群の症状
妊娠高血圧症候群が軽症だと自覚できる症状はほとんどありません。症状として”むくみ”があるのですが、ほとんどの妊婦が経験していることですので特別な症状でもありません。
ただ、慢性的にむくみが続いている場合は、血圧にも意識しましょう。
妊娠高血圧症候群管理ガイドライン2009を参考に重症になると現れる症状を紹介します。
- 頭痛
- 耳鳴り
- 目がチカチカする
- 熱っぽくなる
- 子癇(しかん)
子癇とは痙攣(けいれん)発作が起こることです。子癇が起こることはまれですが、重症の症状の中でも母子ともに命に関わる危険な状態なので、すぐに病院にいきましょう。
妊娠高血圧症候群は出産後には治ることがほとんどですが、その後高血圧や脳卒中、心筋梗塞、メタボリックシンドロームなどを発症しやすくなります。
妊娠高血圧症候群は赤ちゃんに影響する?
妊娠高血圧症候群になると、母体への影響だけではなく赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。
赤ちゃんへの影響は以下の4つです。
- 発育不良
- 低出生体重児
- 最悪の場合は死産
- 大人になってから生活習慣病にかかりやすくなる。
高血圧になると血管から弾力がなくなり、血液の流れる道が狭くなっていきます。血管が狭くなると赤ちゃんに対して栄養を送ることができなくなり、発育不良になってしまいます。
妊娠高血圧症候群になりやすい人
日本妊娠高血圧学会「妊娠高血圧症候群管理ガイドライン」を参考にしています。
- 妊娠前から肥満、もしくは妊娠してから肥満になった(BMI25以上)
- もともと糖尿病、高血圧、腎臓の病気、どれかをもっている
- 母体の年齢が低い(15歳以下)または、高い(35歳以上)
- 初産婦
- 以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある人
- 多胎妊娠
- 家系に高血圧の人がいる
上記のどれか一つでもあてはまる人は高血圧にならないように注意したほうがいいでしょう。
妊娠前から肥満もしくは妊娠してから肥満になった
肥満の人は絶対に高血圧になるわけではありませんが、平均的な体重の人に比べると高血圧になる人は2倍~3倍にまで高くなります。
BMIの数値が「25」以上だと肥満になります。身長と体重が分かっている方は下記の測定方法で数値がいくつか確認してみてください。
「BMI」の測定方法は、妊娠前の体重(kg)に対して身長(m)で2回割ったのが数値になります。(例:体重が50kgで身長が160cmだと「50÷1.6÷1.6=19.5」になります)
もともと糖尿病・高血圧・腎臓の病気どれかをもっている
糖尿病や高血圧、腎臓の病気を妊娠前からもっている方が妊娠すると、合併症として妊娠高血圧症候群になりやすいです。
母体の年齢が低い(15歳以下)または高い(35歳以上)
母体の年齢が35歳以上で発症頻度が高くなります。さらに40歳以上になるとさらに頻度は高くなっていきます。
年齢が低い15歳以下でもなるのは、妊娠時の不十分な管理と不適切な栄養摂取が原因だと考えられているので注意するのじゃぞ。
初産婦
初産が妊娠高血圧症候群にもっともなりやすい一つで、妊娠高血圧症候群の2/3は初産婦です。
経産婦は一度出産を経験しているので、このときに免疫ができます。しかし、出産経験がない初産だと免疫がないために、免疫不良が起こって妊娠高血圧症候群になるといわれています。
以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある人
はじめての妊娠時に妊娠高血圧症候群にならなかった人が、2度目の妊娠時になった人は1.3%でした。
それに対して、はじめての妊娠時と2度目の妊娠時、どちらもなった人は13.1%と大きく差があります。妊娠高血圧症候群は再発率が高いといえます。
多胎妊娠
赤ちゃんが1人の単胎よりも双子や3つ子などの双胎、品胎のほうが発症のリスクが高くなります。
3万人以上の妊婦を対象としたある研究では、赤ちゃんが単胎だった人の発症率は6.5%でした。それに対して双胎、品胎の発症率はそれぞれ12.7%、20%でした。
単胎に対して、双胎以上は約2倍ほど発症率が違うのじゃ。
家系に高血圧の人がいる
遺伝情報の解析技術が驚くほど進化し、DNAから妊娠高血圧症候群が発症するのか予測する取り組みが行われ、妊娠高血圧症候群と関連している可能性のある遺伝子がたくさんあると報告されているのです。
ただ、遺伝子の研究は母体によって結果が変わり、「遺伝子だけではなく、他の環境的要因も大きいのではないか」と考えられています。
妊娠妊娠高血圧症候群の予防法はある?
この病気は予防できれば一番ですが、具体的な原因が分かっていないため予防方法はまだ確立されていません。
血圧を上げないようにするために塩分の摂取を極端に制限する人もいますが、それはめまいや脱水症状などの塩分不足による症状を招く恐れがあるのでおすすめできません。
予防は難しいのですが、定期的に受診し、かかりつけの医師に診てもらうといいでしょう。早めに見つけることが大切です。
予防できないなんて、どうすればいいの?
しっかりと定期健診を受けて、早期発見することが大切じゃ。それだけで、赤ちゃんの健康も大きく違ってくるのじゃ。
妊娠高血圧症候群の予防に葉酸は効果的?
上記で妊娠高血圧症候群には予防法がないといいましたが、葉酸で予防ができる可能性があります。
「葉酸とL-アルギニンサプリメントは妊娠高血圧症候群の予防と重症化の抑制に有効か?」という研究が行われました。
第61回日本産科婦人科学会学術講演会によると結果として、葉酸とL-アルギニンサプリメントを摂取すると、血管内皮機能(血管内の健康を維持する重要な機能)を改善することができました。
血管の機能改善ができたことから葉酸とL-アルギニンのサプリメントを摂取することで、妊娠高血圧症候群の予防と重症化の抑制ができる可能性があると報告されているのじゃ。
あくまで、可能性のため絶対に予防できるとはいえませんが、血管の機能の改善が出来たことなどから何もしないよりも摂取したほうがいいでしょう。
まとめ
以上、妊娠20週~産後12週までに発症する可能性のある「妊娠高血圧症候群」について解説しました。
妊娠高血圧症候群は自覚症状がないため、とても気づきにくくなっています。しかし、そのまま放っておくと重症化していき、母子ともに命に関わってしまう恐れがあります。少しでも異変があればすぐに医師に相談をしましょう。
具体的な原因がわかっていないので有効な予防法というのはないのですが、以下の3つのことを意識して健康的な生活を送るといいでしょう。そうすれば血圧も上がりにくくなるはずです。
- 食事の栄養バランスを整える
- 睡眠などの生活習慣を改善する