長い妊娠を終えてやっと出会えた赤ちゃんですが、産後も妊娠中と同様に色々な心配があると思います。その中でも多いと思うのが授乳期の栄養です。
出産後は赤ちゃんに母乳を飲ませるので、少しでも栄養を摂っておかないといけません。そこで今回は母乳とはどういうものか知ってもらい、授乳期に必要な栄養素について解説していきます。
母乳育児によるメリット・デメリット
母乳とは赤ちゃんが生まれることによって「プロラクチン」という乳腺と母乳を作り出すホルモンと、「オキシトシン」というストレスを緩和し幸せな気分をもたらす、母乳の分泌を促す働きのあるホルモンが分泌されます。
母乳の成分は分泌した最初は薄く、赤ちゃんが吸うにつれて濃くなっていきます。そのため、分泌量が多い人は最初に少し捨ててから飲ませるといいでしょう。
生後3ヶ月~6ヶ月頃までの赤ちゃんにとって母乳は最も優れた栄養素で、生後間もない赤ちゃんにとって栄養の全てだといえます。
母乳は栄養だけでなく、病気に対しての免疫力も優れているといわれています。母乳の中にはウイルスや細菌などの侵入を防ぐ「免疫グロブリンA(分泌型IgA)」というものが含まれ、病気に対しての免疫をつけることができるのです。
精神的にも母乳は親子に良い効果があるといわれています。母乳による精神的影響についての研究で、遊び飲みしながら眠るまでの行動が赤ちゃんの精神的安定に繋がっているといわれているのです。
また、母親も抱っこして母乳を与えることで赤ちゃんに対して愛しく思います。お互いに精神的安定に繋がっていきます。
母乳には栄養以外にも働きがあったんだ!
そうじゃ。母乳は赤ちゃんにとって大切なものなのじゃ。また、育児において経済的負担も減らすことができるぞ。
母乳は虫歯になりやすい?
メリットばかりの母乳にもデメリットがあります。赤ちゃんが大きくなってくると虫歯になる確率が高くなります。
夜中に授乳することがあると思いますが、このあとに歯磨きをしないと虫歯になりやすくなります。「乳歯だし問題ないよね?」と思う方もいるでしょう。
日本小児歯科学会の「母乳とむし歯ー現在の考え方」によると以下のように答えています。
たとえば、乳歯はやがて生え変わるからケアの必要がないといわれるが、小児歯科の立場からは正しくない。乳歯と永久歯は一度に生え変わるわけではないので、乳歯がむし歯になるような悪い口腔内状態では新たに生えてくる永久歯もすぐにむし歯になる可能性が大きいからである。
たとえ永久歯に生え変わるからといって虫歯になりやすい状態を維持していると、永久歯もすぐに虫歯になってしまうのです。
そのため、夜中にわざわざ歯磨きは大変だと思うので、寝る近くにガーゼか綿棒を置いておいて、終わったら綿棒か指にガーゼを巻いて歯の裏側を綺麗にしてあげるといいでしょう。
授乳期に最適な食事内容
授乳期は母親の摂った栄養が母乳となって赤ちゃんに届けられていきます。そのため、母親の食事次第で、良いにも悪いにもなります。
栄養バランスの良い食事方法と、摂りすぎには注意する食品を紹介していきます。
栄養バランスの良い食事方法
栄養バランスの良い食事と考えると、ビタミンやミネラル、たんぱく質やらを「あれも摂ってこれも摂って」と色々と摂り方を考えてしまいますよね。
そのように考えるとかなり難しく感じてしまい、本当にできているのか不安で結局やめてしまうこともあるでしょう。
実際はもっと簡単に考えればいいのです。まずは食事をするときに大きく、以下の6つに分けて考えましょう。
- 主食
- 主菜
- 副菜
- 汁物
- 牛乳・乳製品
- 果物
上記6つのうち「主食と汁物、牛乳・乳製品」の3つは「白ご飯とお味噌汁、牛乳」なので、特に栄養素を考える必要はありません。
つまり、実質3つだけを考えればいいのです。ちょっと簡単に思えてきませんか。次に考えるべき3つです。
まず、メインの主菜ですが「魚・肉・卵・大豆」といったたんぱく質の多い食品を摂ることを意識しましょう。赤身の肉や魚がおすすめです。
副菜のサラダは鉄分やカルシウムを摂るために、ホウレン草などの緑黄色野菜を必ず混ぜるようにしまそう。ひじきなどの海藻類も入れると、さらにいいでしょう。
果物はビタミンを摂れれば良いので、ミカンなどの柑橘系やイチゴを食べるようにすればいいでしょう。
これで、いわゆる栄養バランスの良い食事となります。赤ちゃんの世話をしながら作るのは大変だと思いますが頑張りましょう。
正直、栄養バランスって考えるのって面倒だと思ってたけどこれならできそう!
そうじゃな。栄養素一つ一つ考えるとキリがないから必要なものを絞ると摂りやすいぞ。
摂りすぎには注意する食品
摂りすぎには注意する食品は以下になります。
- 高カロリーの食品、砂糖が多く使われた食品
- 外食・インスタント食品
- 添加物の多い食品
- 油を多く使った料理
- 禁酒・禁煙
どれも普段から摂りすぎには注意すべきものですが、産後は特に気をつけなければいけません。
これらを好んで食べ続けていると栄養が偏ってしまいます。栄養が偏ると母乳の質が悪くなるほか、出づらくなるかもしれません。そのため、授乳期間中はできるだけ上記のものは控えましょう。
ちなみにコーヒーや紅茶に含まれるカフェインを飲みすぎると健康を害する可能性があるので気をつけてください。
カフェインを飲みすぎるとどうなるの?
カフェインが母乳に含まれて、赤ちゃんは眠れなくなったり、機嫌が悪くなったりする可能性があるのじゃ。
授乳期は貧血に注意して
母乳は血液から作られているので、貧血になると母乳不足を招いてしまうかもしれません。そのため、貧血には注意が必要です。
ただ、貧血といっても発症したことがない人はあまりピンとこない方もいると思います。しかし、貧血は症状がないだけで多くの人がなっています。
実際に日本内科学会雑誌の「II.鉄欠乏1.日本の現状と病態」によると日本人女性3015名の調査を行ったところ「半数に何らかの鉄欠乏がある」と言われています。
つまり、2人に1人あたりの女性が鉄欠乏による貧血に気づいていません。特に貧血になっているのは20代に多く見られようです。
なぜ貧血になる人が増えているのかというと、農林水産省の「1 妊産婦に対する栄養指導」によると、近年、20代~30代の女性に食事の偏りや、痩せている人が増えてきているからだそうです。
貧血を改善するための方法
まずは一度自分の食生活を見直してみてください。外食が多いのか、食事が偏っているのか問題はないか思い出してみましょう。
問題があればそこを解決してから、以下の改善方法を試してみてください。問題があるまま改善方法を試しても効果にはあまり期待できません。
- 1日3食、毎日食べる
- 栄養バランスがとれた食事をする
- たんぱく質を摂る
- 鉄やビタミンC、葉酸などのビタミン・ミネラルを摂る
たんぱく質は体を構成する材料となる大切な栄養素の一つなので、積極的に摂っていく必要があります。ただ、毎日ご飯を食べていれば問題はありません。
鉄を不足した貧血が多いので鉄だけで良いのでは?と思う方もいるでしょう。葉酸などにも造血作用があり、貧血の予防に役立ちます。
ビタミンCには造血作用はないのですが、他の栄養素の吸収を良くしてくれる働きがあります。食べても吸収できないことがあるので、ビタミンCを摂って効率よく吸収しましょう。
授乳期の食事摂取基準からわかること
栄養バランスがとれた食事を推奨していますが、本当に栄養を満たせているのか気になる人もいると思います。
そこで、厚生労働省の食事摂取基準と、普段どれだけ摂れているのか分かる栄養調査を確認してみたいと思います。
まずは食事摂取基準から確認し、次に栄養調査を見てみましょう。
授乳期の食事摂取基準
以下は18歳~29歳までの女性の食事摂取基準です。(参照:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2015年版の概要 」)
推奨量 | 付加量 | |
---|---|---|
カロリー | 1950kcal | +350 |
たんぱく質 | 50g | +20 |
葉酸 | 240μg | +100 |
鉄分 | 6mg(月経あり10.5mg) | +2.5 |
次に30歳~49歳までの女性の食事摂取基準です。
推奨量 | 付加量 | |
---|---|---|
カロリー | 2000kcal | +350 |
たんぱく質 | 50g | +20 |
葉酸 | 240μg | +100 |
鉄分 | 6.5mg(月経あり10.5mg) | +2.5 |
国民栄養調査
上記の食事摂取基準を確認してもらえたら次は平均どれほど栄養を摂取することができているのか確認してみましょう。(参照:厚生労働省「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」)
20歳~29歳の平均摂取量
カロリー | 1631kcal |
---|---|
たんぱく質 | 60.5g |
葉酸 | 229μg |
鉄 | 6.5mg |
食事摂取基準と比較してみると、全て少し足りていないことが分かります。そのため、普段の食事量を3食それぞれで少し増やす必要があります。
30歳~39歳の平均摂取量
カロリー | 1694kcal |
---|---|
たんぱく質 | 62.1g |
葉酸 | 240μg |
鉄 | 6.7mg |
こちらも20代と同様に全て足りていません。また、推奨量が少し増えていることを考えて食事量を増やしましょう。
40歳~49歳の平均摂取量
カロリー | 1677kcal |
---|---|
たんぱく質 | 60.7g |
葉酸 | 244μg |
鉄 | 6.5mg |
30代と同じ食事摂取基準ですが、葉酸以外摂取量が減っています。食事量を全体的に増やすのが難しいのであれば、葉酸や鉄はサプリを利用してみてもいいかもしれません。
授乳について困ったこと「母乳が足りているかどうか分からない」
厚生労働省の「第1部 乳幼児の栄養方法や食事に関する状況」によると67.6%の人が「ぜひ母乳で育てたいと思った」と回答しています。
しかし、それと同時に授乳について困ったことで「母乳が足りているかどうか分からない」という人が40.7%もいました。
「母乳が足りているかどうか分からない」という問題ですが、状況によって少し違ってきます。
飲ませても頻繁に欲しがるだけなら、赤ちゃんは毎回お腹一杯になるまで飲むわけでなく、寝たりして休みながら飲むので、すぐにお腹が空くことがあります。
そのほかにも、突然、母乳をたくさん飲むようになったのであれば、それは成長して飲む量が増えただけかもしれません。
このように飲む量が増えて、母乳が足りているかどうか分からない悩みも状況によって答えが違ってきます。
もし、悩みが気になるのであれば「日本母乳の会(Q&A)」で母乳の悩みについて分かりやすく回答してくれているので確認してみてはいかがでしょうか。
たしかに、少しでも違った行動したら心配になるなー。
どうしても心配だと、ストレスとなって反対に体に悪いから産婦人科などに相談してみるのも一つの手じゃぞ。
まとめ
赤ちゃんにとって母乳とは成長のためにも必要ですが、それ以外にも病気に対しての免疫力や、精神的影響もあります。
授乳中の赤ちゃんにとって母乳は欠かすことのできないものです。良くも悪くも赤ちゃんの成長に影響を及ぼします。
少しでも良い母乳を飲ませてあげたいなら、食生活の改善が大切です。母乳は母親がとる食事によって影響があります。
そのため、栄養バランスの整った食事をとることが大切になってきます。しかし、厚生労働省の国民健康・栄養調査と、食事摂取基準を比較してみると、授乳期に必要な栄養素がどれも足りていないことが分かりました。
忙しい授乳期のため、食事を作る余裕も暇もないという方もいるでしょう。その場合は葉酸やビタミンC、Bは葉酸サプリで摂ってもいいかもしれません。
あくまで、これは最終手段として考えてください。また、簡単にサプリで栄養摂取できるので過剰摂取には注意してください。
- 母乳には栄養以外にも免疫、精神的安定としての働きがある
- 母乳を飲んだ後に歯を磨いてあげないと虫歯になるかもしれない
- 授乳期には貧血に要注意
- 授乳期は食事の栄養バランスを整えることが大切
- 栄養バランスを整えるのが難しいなら葉酸サプリも考える